労働者クラブが、演説、音楽、ダンス、芝居と、それぞれ趣向をこらして、記念の一晩を有益に愉快にすごす仕度をととのえているのである。
ニーナとナターシャとは、期待で眼を輝やかせながら、クラブの戸をあけて入って行った。今夜このクラブでは特別ポーランドからソヴェト同盟へにげて来た婦人闘士と、モンゴリアからの婦人代表が、話をすることになっている。
演説のはじまるまで二人はぐるぐる大きいクラブの中をあっちこっちと散歩した。
音楽サークル室からは、今夜の余興のマンドリン合奏の稽古をやっている音が洩れる。
戸のところに誰か立ち番していて、外からあけようとすると、
「一寸だめだよ! 何用?」
と、一々きいているのは、演劇サークル員たちがぎっしりつまって、ヒソヒソと大熱心に、これもまた何かアッと云わせる趣向最中らしい室だ。
体育室からは、フットボールの弾む音がする。
あまりいきなり廊下の頭の上でジリリリッ! と開会を知らせるベルが鳴ったので、ニーナとナターシャはびっくりして互につかまり合い、やがて大笑いしながら、四五百人はいる大広間へ入って行った。[#地付き]〔一九三二年三月〕
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