れが早いからニーナの室には電燈がついているが、時刻にすればまだ四時そこそこである。今日の退け時ほど工場の出入口が陽気だったことはない。
 工場委員会は、各職場へ、特別婦人デーのための芝居割引券をどっさり配った。ニーナはそれを貰わなかった、というのは、今夜食糧労働者組合クラブに、婦人デーの催しものがある。ナターシャをさそって、ニーナはそっちへ行くつもりなのだ。
 電車の停留場まで出てみると、朝のせわしさとはうってかわった景色である。同じ毛織のショールでもよそゆきのをかぶり、祭日らしい身なりをした女が二人三人とつれ立って、電車を待っている。
 枝々に白く雪の凍った並木道の間を電車が走ってくるが、チラチラとアーク燈のつよい光りをあびるごとに、風にはためく赤旗が、美しく目立つ。
「労働宮」のわきを電車がまわるとき、ニーナはなんとも云えないよろこびで、三月八日[#「三月八日」はゴシック体]と大きく輝いている赤色イルミネーションを眺めた。赤い光りはボーと屋根の雪までてりかえしている。
 電車の乗合も、どっかのクラブか芝居へ出かけるらしい労働婦人たちが多い。今夜は国際婦人デーだ。ソヴェト同盟じゅうの
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