走ってくる電車の屋根に、赤い小旗がヒラヒラしている。
 どの女も、今日はどこやらいきいきしているようではないか。
 ニーナの乗ろうとする電車は相変らず満員だ。一台やり過した次の車も満員なので、ニーナは待ちかねて、やっと車掌台へ片足かけ、顔をあおむけて、
「みなさん! もう少し詰めて下さいヨ! 私これに乗らなけりゃ工場へおくれるんですから!」と叫んだ。両手で金棒につり下ってやっと自分も車掌台に立っている労働者が、
「おい、一足ずつくり合わしてくれ! さもないと娘さんがふり落されるぞ!」と陽気にどなった。
「オーイ、今日は女の日だ! 詰めろ、詰めろ!」どっと群衆が笑い、ニーナも笑いだしたが、いつか本当にみんなが詰めてくれて、やっとニーナは安全に電車にのれた。

 工場へ曲る角に新聞雑誌の屋台店がある。ニーナは昼休みに仲間によんできかせてやるため、毎朝そこで『プラウダ』を買って行く習慣だ。店番をしている十五ばかりのナターシャがニーナを見て今朝は「お早う」のかわりに、
「今日は私達の日ね、おめでとう……」
とニコニコしながら嬉しそうに云った。
「今日の『プラウダ』はいいよ」
 ニーナが受けとっ
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