前からの技術家がのこっている。芝居の方でもそうだ。だから古い大家連の中には、革命までの数十年間にしみ込んだ俳優気質っていうようなものを持ち越して生きてるものもあるらしいな。そういう面はありながら実際舞台に働いている大家連は、それは歌右衛門や仁左とはちがうさ。社会主義からきりはなされて存在しているのじゃない。大部屋、下まわりにしたって、大家連と同じ芸術労働組合員《ラピス》だもの。聞いただろう? ソヴェト政府は、過去に功労あった芸術家たちに、「人民芸術家《ナロードヌイ・アルチスト》」「功績ある芸術家」っていう二種類の称号を与えて優遇しているのを。モスクワの劇団にだけでも「人民芸術家」が十一人ばかりいる。「功績ある芸術家」は四十人以上ある。
  例えばモスクワ芸術座のルージュスキーなんか、役柄は西洋の松助みたいなところだが、革命前、アルバート広場の裏んところへ大きな邸宅をもって暮していた。革命当時一旦邸宅は没収されたらしいが、直ぐ、過去の功績に対して邸宅を与えられた。――すっかり政府がくれたんだ。今、ルージュスキーは、広い前庭のある立派なその家で、ゆったり暮している。画家でも、作家でも、科学
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