会あるごとに過去のバレーやオペラの形式を利用して「自分」を、見物に印象づけようとする熱心さがつよい。(その結果、ここの見物がモスクワの数多い劇場の観客の中で一番、個人的にヒイキをもっている。フットボーリストが、球を抱えて舞台へとび出して来ると、いきなり声がかかる。――スモーリツォフ! スモーリツォフ!)
「蹴球選手《フットボーリスト》」において、「ゴトブ」の連中の爪先で踊る技術からぬけ出られなかったと同時に、このプリマドンナ・ソロイストの個人主義を清算しきれなかった。第三幕目大詰は、ソヴェトの生産の拡大、社会主義の前進、ウラー! ソヴェト市民の日常は一九二九年末、新しい光りで照らされている。それに対する鼓舞の熱い燃え輝く力で観衆を一かたまりに高揚すべき大切な場面だった。それにもかかわらず彼等はそれをどう表現したか? 必要とは全然逆に表現した。――彼等は考えた。大詰だ。ここで、えーと、誰と誰、誰を踊らしてやらなければなるまい。だが、滝のザンザと落ちる前で銀色のヴェールをふって、水の精が踊り、数人の火の精がとびはねるだけのこととなった。自然の可能性を人間の幸福に役立てようとする巨大な意志と
前へ
次へ
全55ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング