るんなら、この手帳みてくれないか。
――ほう、よくも貼りつけたね。一杯、貼ってあるじゃないか、……これがみんなモスクワで見た芝居の切符かい? これ何だろ。
――ああ、『イズヴェスチア』へ毎日出る芝居の広告を、見本としてきりぬいといたんだ。
――何だい、この一等したの、大きな字で印刷してあるのは。
――ベガ――……競馬の広告だ。
――競馬もあるのかい? 行ったか?
――行って凍えて来た。
――金をかけるのか?
――かける。馬種改良の目的だから、馬は二輪車をつけて走るんだ。
――お前に競馬のことを聞いたって、ものにならないのは、わかってるよ。――おや、これは?
――劇場は、どこでもそこの壁新聞をもっている。工場や役所、学校と同じに。――劇場壁新聞の展覧会の写真だ。
――ふーむ。この一冊の帳面は全体が観劇日記みたいなものなんだね。
――ソヴェトでは、歴史の進展が実に速いからね。もう四五年してごらん、芝居だって、きっと随分変るだろうと思うんだ。面白いだろう? ソヴェトを愛する一人の外国の素人が一九二八年から三〇年頃の劇場を、どんな風に見ていたか。――
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