――ドイツでは?
 ――見た。
 ――ソヴェトの劇場と比べてどうだね、面白さは。
 ――ドイツの演劇では、機械的な技術がすぐれてるだろうし、演劇の歴史でソヴェト演劇と近い関係があるんだろうが、びっくりさせられるような点がなかったな。実はびっくりしたかったんだが、そういうものには出会わなかった。ラインハルトの近代ロココ趣味や、ピスカートルの上手さあまって反社会主義的効果をもたらしたようなものを見た。
 ――パリのグラン・ギニョールを見たか? 有名じゃないかあれは、ああいうものはソヴェトにあるかい?
 ――無くて仕合わせだ。ひどいので、その点でびっくりした。凄くも、こわくも、綺麗でも、きたなくもない。うんと陳腐な所謂変態心理と性慾を、最も拙劣な筋書きで見せてる。
 ――レヴューは?
 ――ソヴェト式レヴューがあるよ。
 ――オペレットは?
 ――ある。でも、やっぱりソヴェト式だ。
 ――……ついでだから、どうだい一つ見て来た芝居、例えば、モスクワ芸術座なら芸術座、МОСПС《エムオーエスペーエス》それぞれについての印象を話してきかせないか?
 ――素人だからな。……でも、若し興味があ
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