一枚について十五カペイキか二十カペイキの手数料をとって切符のとりつぎ販売をしていたことがある。この頃それはない。
 ――割引なしか?
 ――なしだ。だから、行った当座は高いのに閉口して、舞台から遠いところを買った。観えはするが科白《せりふ》がわからない。降参して、しまいには段々近くまで進出した。
 ――電話かけて切符を届けさせることは、出来ないのか?
 それはしない。こんなことがあった。劇場は市じゅうとびとびだからね、いちいちそこをまわって買うのは骨なんだ。時間がえらくかかる。その上前売切符を売る時間が、まちまちだ。そうかと云って、其日では、手に入らない。誰かから、国立第一オペラ舞踊劇場の後に、まとめて各劇場の前売切符を売ってるところがあるってことをきいた。行って見ると、成程ある。狭い入口の外へはみ出るほどの男女がいく重にも列をつくってしずかに順を待っている。普通十日ずつの上演目録が往来などには出ているが、ここではもう十日先のつまり二十日間のプログラムまではり出されている。それを見る時は、嬉しいんだよ。
  人込みの間をやっと、のびあがってプログラムを調べ、見たいと思うのを手帳へかきつ
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