次の日の五月二日は休みだ。疲れやすみだね。町々には、まだ昨日の装いものがある。労働者市民は、胸に赤い花飾りなんかつけて、三人四人ずつ散歩している。いくらか、昨日の今日で街が埃っぽいのも、わるくない。昼間はしまっている各劇場の戸口に日に照らされながら札が出ている。「本日、劇場はただ労働者諸君のためにだけ開場する」――職業組合がモスクワじゅうの劇場の切符を労働者に分けるんだ。五月二日、モスクワじゅうの数万人の労働者が、昼間はのんびり散歩して、夜は芝居を観る。これは、小さなことか?
 ――……あんまり感動させてくれるなよ。――ふだんは、どんなんだろう。いつも労働者の見物で芝居は一杯かい?
 ――劇場によるな。いつか統計が出ていたが、МОСПС《エムオーエスペーエス》劇場の見物なんか、九十八パーセントまで勤労者だ。女優がパリの流行雑誌まるうつしの扮装でマネキンみたいに舞台をのたつく悪習をもつと云われている諷刺劇場なんか六十パーセントだ。
  ソヴェトの劇場は、今までいつも一つ大きな困難をもって来た。劇場建築が旧式で小さいということだ。昔はそれでもよかっただろう。金のある者だけ見たんだからね。現
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