おばさんが窓のところからわれわれに陽気な声をかけた。
「野営地を見にきたんですか? あんたがたは――」
「そうです」
とわたしは答えた。
「どこへ行ったらいいんでしょう」
「まっすぐその道行って、第一番の家へ入っておききなさい」
「ありがとう」
家と松の木のかげを出たら、前にとってもカラリとした広場があらわれた。真中に高い高い柱が立っていて頂上に大きい赤旗が翻っている。夏の光った熱い青空で、赤旗は愉快に翻っている。
朝、野営地じゅうのピオニェールが整列してラッパと敬礼でこの旗をあげる。夕方、また同じ儀式でこの赤旗をおろす。赤い労働者の旗は、ピオニェールの一日の働きのしるしなのだ。
一番目の家というのは、すぐ広場の前にある。十二三の、ピオニェールの制服をつけたオカッパのピオニェールの女の子が二人、家の入口のところに歩哨に立っている。その家の中には、この野営にやって来ているいくつかの分隊の分隊旗、ラッパ、太鼓などが、きちんと並べて飾ってある。
そのピオニェール少女のひとりが、指導者をよんで来てくれた。まるで若い共産党青年女子《コムソモールカ》だ。上は制服をきているが足はむき出しで、運動靴をはいている。元気なもんだ。
われわれは、カンカン日にてらされながら、ひろいひろい、野営地じゅうを見て歩いた。五百人のピオニェールが走っているんだそうだが、どこにいるのか、丘や林や池のあっちこっちにちらばって、一向めだたない。
景色はなんとも云えずいい。花の咲いてる道をダラダラのぼってゆくと、樹にかこまれた大きい池がある。大よろこびで、ピオニェールたちは水浴びの最中だ。
植物採集をやっているらしく、しきりに茂った草の中を、なにかさがしながら歩いているピオニェールの姿も見える。
指導者のアンナさんは、われわれとならんで草の中へねころび、満足そうにそういうピオニェールの夏休みの景色を眺めていたが、急に、
「ああ、あなた。この池をさかいにして、私どもんところじゃ、大戦さがあったんですよ」
と云った。
「大戦さ? いつです?」
「ついこの間!」
そう云って、アンナさんは笑った。
「知っているでしょう。一九二九年の夏はソヴェト同盟で、世界の第一回ピオニェール大会がありました。今年一九三〇年の夏は、ドイツのハーレという市で、第二回の世界ピオニェール大会がひらかれる筈だったんです。と
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