そこに出ていた絵が大変面白いと思ったからそれを切抜いて帳面へ貼ってわきへ唱歌を書いてこれを表現するという風にする。だから主題は一つだが、表現方法は非常に子供の性質、有っている表現力というものを尊重して行く。そうしなければならぬということは、経済的にいってそうです。個人が自分の不得手な表現を強いてするということは大変な精力の消耗だから。
 ソヴェトが社会主義社会を建設しようとする大目的に向って基本的に決定している指導方向は断然一つだが、その中にある個性の尊重ということは非常に注意してやっている。活かして行かなければならぬ大きな存在というものは常に一つである。それは社会主義をつくるプロレタリアートの大衆的利害だ。その中で個々の性能をどんな方面に社会的に役立たすかという意味における個性尊重、どういう表現を通じて役立てて行くかという点における個性尊重というものは勿論十分各々行われている。アナキスティックな個性尊重というものは金持の坊ちゃんの存在しないと同様にないわけである。
 アメリカは誰も知る通り大量生産だ。ソヴェトもそうだ。ところで現にアメリカでは大量生産に慊《あ》きかかっているではないか
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