、森の中に暮して居ります。「女王」のお靴を磨きお髪《ぐし》あげをする黒坊の群も居ります。るろうの伊太利人は、バンジョーを胸から提げて道傍に立ちます。此の細長い、戸数の僅かな村でありながら、其の木の陰や森の彼方には、種々雑多な人種が、各自の力限りの生活を営んで居るのでございます。
 此頃は殆ど毎日のように問題となって居る黒白人種の争闘は、心を苦しめます。今度の大戦で、欧州に出征した黒人は、楽しんで還った故国に非常な失望と、憤懣とを感じて居りますでしょう。独逸《ドイツ》人は不正な、人類、人道主義の敵であるから殺せと命じられて来た彼等は、帰って来た土地で、同様の不正と、逆徳とを発見致します。彼等の行為が不正であると云うが故に独逸人は懲罰として死を与えられた。其だのに何故自分等は、全く同様の不正の下に、沈黙を守って屈従して居なければならないのか? 独逸人に向ってのみ人道主義は説かれるべきなのだろうか? 相当の頭を持った者は皆、皮肉な、一面から云うと、デスペレートな気分で此等の疑問を抱いて居ります。仏蘭西に行った者は、仏蘭西人を、より人間らしい人間として愛して居ります。ベルジュームに行った者は、
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