地を這う蟻の喜悦から、星の壊《ついえ》る悲哀まで、無涯の我に反映して無始無終の彼方に還るのではございますまいか。
 同じ、「我」と云う一音を持ちながら、その一字のうちに見る差が在る事でございましょう。考えて見ると冷汗が出ます。けれども、冷汗を掻くからと云って、凝とすくんで居るべきではございません。持って居るものは育てなければなりません。下らない反動や、反抗やらで、尊い「我」に冒涜を加えず、自分の周囲に渦巻いて居る事象に迷わされず、如何程僅かでも純粋に近い我を保って、見、聴、生きるべきではございますまいか。
 C先生。私斯様な前提を置いてから、少し許り、私がこちらへ来てから「私」の感じた事を書いて行こうとして居ります。
 可成種々あるような気も致します、が、先ず同性と云う点から、こちらの婦人に就いて私の思ったままを述べさせて戴きましょう。
 厨川白村氏によって「女王」の尊称をたてまつられ、又この名にふさわしい権力を以て生きて居るこちらの婦人は、私の眼に意味深いものとうつりました。
 C先生、総て事物を客観的な立場から見て、物を考えますれば、婦人の常識が豊かな方が、貧弱な頭脳の所有者である
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