ねて予想した結果にまで事を運んでしまうのでございます。
斯ういう事情があっても、良人が自分を虐待するという為に訴訟し弁護され、勝訴するのは、公正な事でございましょうか?
C先生
私は、人間の魂に余り「知」の不足する事を涙とともに悲しまずには居られないのでございます。
此の事件をよく考えて見ますれば、此は単に、そう云う悲しむべき目に会った良人が可哀そうだと云う事丈ではすまされません。
良人が哀であると同様に、彼女も哀れむべき魂の所有者ではございますまいか。
愛を失った事で或程度の苦味を嘗めた心は、人を計ろうとする奸策で汚され、其に成就した誇りで穢されなければならないのでございます。
其に比べれば、良人の受けた結果は、そういう性質を知らずに結婚した不明と、その策略を感じなかった事を賢くないとしても尚、この真の意味に於ける破産は、比較にならない程潔いものではございますまいか?
私は、食べられなければガツガツし、自由に食べられれば、食傷して死ぬ人間の惨めさを思わずには居られません。
単に此の場合のみではないのでございますから――。
人間は種々な方面に此の貪慾さを持って居るの
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