より純一な相互の生活の為に已を得ない事でございましょう。決して、あるべき事ではない。そしてそう云う場合に用いられる法律的権利は、最も慎重な反省と、深い理知的批判を経た後にのみ決定されるべきもので、単純な反抗心や、浅薄な優越を得たい為であってはならないのは勿論の事でございます。
 ところが、こちらでは、そう云う事件の場合、悲劇を一層悲劇的ならしめる結果が多いのは、どうしてでございましょう。
 一人の人間が死ぬことは、大きな悲しみでございます。
 その死ぬ一人が、又他に一人を殺すのは、恐るべき事ではございませんか?
 もっと具体的な例をとって申せば、一人の人が対手に愛を失ったのは、もう其で充分な涙であるべきでございます。其が、愛を失った上に、魂の尊重すべきをさえ忘れるのは、更に悲劇ではあるまいかと云う事でございます。
 離婚訴訟には、婦人の弁護士がつきます。そして、大抵の場合に婦人が勝訴になります。時には、良人が何等の悪意も蛮行もない場合に於てさえ婦人は訴訟して、勝つ事がございます。
 其は何故でございましょう。何故そう云う恐るべき冒涜が人間の魂に向ってされるのか? 此は、私が真個に心から
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