られては居りません。従って、彼女等は、尊敬すべき良人を守って、超然と立つ勇気も無ければ、放蕩無頼な良人をして涙を垂れさせる、尊き憤りもございません。従順と、屈従との差を跨き違える人間は、自分の何事を主張する権威も持たない薄弱さを、「私は女だから」と云う厭うべき遁辞の裡に美化しようとするのみならず、小溝も飛べない弱さを、優美とし「珍重」する(特に珍重という言葉をつかいます、何故なら、人間は、畸形な小猫をも、その畸形なるがために珍重致しますから)男性は、その遁辞を我からあおって、自分等の優越を誇って居ります。
 此等に気焔を上げてしまいましたが、とにかく、此の積極的という事は、万事に就て、こちらの婦人の強みになって居ると思います。良人の僅かな月給を、どうしたら一銭少く使おうかと心配するより、先ず、自分が幾何補助する事が出来るかを考えます。
 どうしたら怒らせまいかと思い患う前に先ずその一つ先の笑わせる事を考えます。
 彼等が生活というものを真剣に考える事は、我国の婦人の及ばないところだろうと思います。
 生活は彼女等にとって遊戯ではございません。生きなければならないと云う事は、片時も脳裡を
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