ベルジュームの心を感じて居ります。
 然し、インディアンに比較して、私共は彼等が楽天的な傾向を持って居る事を、寧ろ不思議と思う位でございます。
 往来で擦れ違う彼等を御覧遊ばせ、黒人の娘は華やかな胸着《ベスティー》を附け、流行の帽子を戴いて笑い興じながら行き過ぎます。然し、中高な引しまった表情を、淋しげに亜麻色の髪の下に浮べたインディアンの娘は、殆ど誰も誰もが、地味な陰気な黒い着物を着て居ります。笑いも致しません。陽気な声で物も申しません。親ゆずりの靴を履いた足音を静かに立てて、彼方の部落へ姿を消して仕舞います。インディアンが、永劫の秋に住して居るような心持に比べて、黒人は、何と云う陽気さでございましょう。
 私は、鼻の丸い、体の大きい、正直な黒人が好きでございます。彼等と話して居ると、心が理屈抜きに正直になります。先生は、大きな米国人よりもっと大きい黒坊の傍で、頭が痛くなる程上を見あげて喋って居る小さい〔以下欠〕



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:「年刊多喜二・百合子研究 第2集」多喜二・百合子研究会編、河出書房
   1955(昭和30)年9月発行
執筆:1919(大正8)年
※「*」は不明字。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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