、同じ人類である女性が賦与されないのは不公平だと云うその一点をのみ原因として要求するのならば、其は余り浅薄でございます。余り反動的動機でございます。其権利を獲得した事に依って、政界に新鮮が与えられ、よりよき暗示を施政者に与え得るが故に、要求されなければならないものではございますまいか。
女性の自覚は、男性の所有すると同様のものを所有しようとする――一面から申せば何の改造も加えられない現状の模倣――であってはなりません。若し現今、男性の社会生活が認定して居る或権利でも、其の価値が低級である場合には、其の存在を否定する丈の見識がなければなりません。
私共は落付いて、真剣に、人格的自由と云う事を考えなければなるまいと存じます。教養のない者の破廉恥は、教養ある人格者の同様の行為よりは道徳的責任が軽いのは自明の理論でございます。従って、総ての点に人格の独立的権能を保有する者は、其等の賦与されて居ない者より、其の生活に一番人格者としての責任を負うべきでございます。女性が人格者として社会的権能を所有する事は、よりよい叡智に依って、異性との協力的結果の価値を高める為でございます。人間の裡に在るべき叡智のよりよき、より自由なる発動の為に、飛翔の為に、其の機会を多数に、多種に拡張し保護する権能が要求されるのでございます。私共は其の道程にのみ終始するべきではございません。使用すべき権能に使用されてはなりません。如何程鋭利に研かれた小刀《メス》も其を動かす者の心の力に依って鈍重な木片となる事を私共は知らなければならないのでございます。
斯様に考えて来ると、私共は、米国女性一般が果して、彼女等の権能を如何程までの反省を以て把持して居るだろうかと思わずには居られません。参政権を賦与された婦人の幾人が目下大統領を困らせ抜いて居る政党関係を知って居りますでしょう。
女性の名誉と、経済的保障の為に制定された離婚訴訟に関する権利を、如何程の深い、価値ある態度で運用して居りますでしょうか。離婚後の扶助料を以て暗々裡に良人を威嚇しつつ同棲生活を続ける夫人連や、利己的の恥ずべき動機から離婚訴訟を起して、良人の心に致命傷を与えるのみならず、自分の魂にまで泥をかける或種の、数に於て多い夫人達がどうして自覚ある人格者と申せますでしょう。女性の人格者としての価値は決して、同じ昇降器《エレベーター》に乗合わせ
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