ば、若い人達は、如何にも可愛いが好きではないということになります。
 実際、所謂女仲間に入って見ますと、私などは、かなり出しゃ張りの方でも、その絶え間ない早口と、戯談と寸刻もじっとして居ない態度とは、神経を気の毒なほど疲らせてくれます。
 女の人の寄宿舎などは、まるで、今海から上げた大漁の網そのままの活々しさでございます。踊るもの、かけるもの、キーキー云ってふざけるもの、声高に座談をなげ合うもの、命が躍って、躍って、止途もないというようなのが女の人、ことに若い人の通用性でございます。絶えず興奮して居ります。
 静かにしんみりと話すことは少くても、笑うか、喋るか、歌うか、動くか致します。
 其は勿論活動的であり、積極的であるからでもございましょう。がその一つの原因は、絶間ない刺戟に彼女等の神経が追い立てられて居るのでございます。
 うなりを立てて廻転する大都会の車輪の一端に、辛くも止まって居る微細な神経は、過度な刺激で或程度にすりへらされて居ります。
 そのすりへらされた神経に与える変化は、どうしても濃厚なものでなければなりません。生活に疲れた頭は決して、低声の雑談ではいやされません。
 目のさめるような事がなければ息がつけません。
 従って彼女等は、濃い色と、強い音調と香気と、強い興奮で、轟々と鳴りとどろく、大都会の騒音に辛くも反抗するのでございます。
 其故同じアメリカでも、場所によっては、決して騒がしい女性許りではございません。
 しっとりと、草の葉のさざめきに耳を傾ける人もございます。
 私は、彼女等が圏境から与えられた騒躁な、騒躁でなければ居られない神経と云うものに、人間はもっと深い同情と思慮とを費やすべきだと存じます。
 何故なら、此は、只彼女がそうなったと云うのみに止らず、そう云う圏境は、従ってそう云う文明は、正しいものか、正しくないものかと云う大きな問題に逢着すべきだからでございます。
 又気焔を上げそうになります。真個にもう此は此処までに致しましょう。
 御ゆっくり御やすみ遊ばせ。
 静かに更けて行く湖面には、小さい螢が飛んで、遠い沼に、かえるが長閑《のどか》に喉をころがして居ります。
[#地から2字上げ]六月十七日

       雑信(第二)

        (其一)

 C先生。
 雑信第一に於て、私は自分の仕事に対する近頃の心持を御伝え致し
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