れほどいつくしみ信じ、暖く胸に抱いて来た愛の、対人的可能を、絶対に否定し尽さなければならないように見えて来たのです。無明のうちに安住することは本能が承知しない。はっきり自分にもその惨憺さのわかる遣りなおしも、ただ時間とほか、考えられなく成って来たのです。或る状態の裡からあるがままの自己をひっさげて出て来さえすれば、精神を自由にすることが出来ると思い込みかけたところに、この期の致命な危険が隠されていました。今思うと、実におそろしい。情熱は反動的に働く性質を有つ為本性とはぐっと歪んだ路に、自己を強いようとしかけたのです。
 どうなるか、息も楽に出来ない緊張の最中、私には、外面的に見ると妙な救が現れました。それは、私に非常な好意を持っていてくれる或る人が、私の当時の心境を察し、抱いている爆薬のような企図を、大層慫慂してくれたことです。ところがその人が不用意の間に発した一言が、私には霹靂のようなショックを与えました。かえって事態は、まるで逆転してしまいました。私は思わずはっとし、まるで異なった角度から、驚いて我というものを眺めなおし得たのです。
 私は更生といってよいほどの溌溂さを以て、自己の
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