内的配置の移動を覚えました。永い間忘られていた純粋な歓喜が心を貫いて、涙をとどめ得なかった。何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。
 この位置のきまったという感は、恐らく、次にまた大きな危期が来る迄、私の生活の基礎となりましょう。世の中というものを仮に大きい、複雑な諸質、諸力の活動している生物体と見ると、その裡に入った一細胞としての個性は、何等かの意味で、各自の在るべき場所を得なければなりません。精神的自信を持ち得る確さに於て。
 ところが、いわゆる、境遇の変化という通路によって、新たな有機体の中に這いったものは、そう容易に自己の場所を心的に見出し得るものではないと思います。押され自らも押し、種々な力の牴触を経て、しっくりと或る処に真から落付く。それから徐ろに周囲の養液を吸収し、整理し、発育して、自己の本質的な営みというものを明かにして行く。勿論、この期に得た、明瞭らしい外囲との相対的関係も、或る時間を経、進化の道程に不必
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