なかったことは、状態を一層混乱させました。
大小にかかわらずことごとくが私にとっては極抽象的な「問題」の形をとって来ます。感動し、失望し、考えに耽る内なる自己と起った事柄とをしっくり対談させることを知っているようで知らない自分は、考え、考え、頭の上で思索の範囲の拡大を見るのみで、結局内部では実践的に何一つ解決されないということになる。
或る期間の後、私は、全く人生に対して懐疑的になりました。真実と愛があれば、救われる等という信仰は、消える虹のように見えた。どんな焔でも、傍から水をざぶざぶかけられたのでは、輝やいていられないと思う。私は、更に新たに形作った生活の形式、形式の黙許している種々なる関係に腐ったものがあるに違いないと感じました。その為に、自分は、目に見えて毒されて行く。こうしてはいられない。これを征服するか、征服されてしまうか? 征服された暁を考えると、そこには生きるに堪えないほど、威力を失い、自己の滅却された憐れな我姿を見ます。
征服しなければ自己を守り得ないとすれば、私は、原因となる対象を全部否定し、生活圏外に放擲してしまわなければならない。約言すれば、自箇の天性があ
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