ことと、自己を磨くこととを、一様な理知の仕事の裡に混同してしまっていたのです。
これとても、その時の私は自覚しなかった。真個に一生失ってはならない感激と独りよがりとを、ごたごたにし、人生に対する尊い愛、期待と、空想、我ままを一緒くたに持って、正面から堂々と、人生の或る扉を叩いたのでした。
顧みて、微笑を禁じ得ません。愛らしき滑稽! 然し、自分の手で開いて見た扉の一重彼方は、私にとって、偉いダンテさえ当惑したような、紛糾の森林でした。
様々に描き、予想し、もう自己の内部を絶頂まで披瀝して当ったのですから、彼方此方で意外な齟齬に出会っても、自己を回収することすら容易でない。自分で自分の手にあまる廻りからは、どんどん新たな、決して、私の有るべきという範疇では認めていなかった関係的いきさつが不快に、或る時には明かに不正に襲って来る。
単純であった為、整然としていた自己というものは、極度に分裂してしまいました。分裂した一部分が、それぞれの活力と発言権とをもって対立する。
この時、私が、実際生活上に起る諸事の軽重を弁え、兎に角自己の立てるべき処を失わずに日々を処理して行く確かさを持ってい
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