われらの家
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)稍々《やや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)中央の長|卓子《テーブル》の処には、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)落付く暇が無く[#「く」に「ママ」の注記]かった。
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 午後六時
 窓硝子を透して、戸外の柔かい瑠璃色の夕空が見える。
 朝は思いがけなく雪が降って、寒い日であった。
 泰子は、チロチロと焔の揺れる、暖かい食堂のストーブの傍のディブァンに坐って、部屋の有様を眺めて居た。
 中央の長|卓子《テーブル》の処には、母親を中央に置いて弟と妹とが何か頻りに喋って居る。
「ね、おかあさま、酷いのよ。新らしい、ちゃんと作ってある畑をわざと滅茶滅茶に踏こくったり、ガワガワ樹の皮を剥いたりするんですもの、僕驚いちゃったや
「ああああ其那ことをする者はね、決して立派な子じゃあないよ
「此の水毒じゃあないのおかあさま、よ、此の水
 卵色の着物を着た小さい妹は、一生懸命に兄から母親の注意を呼び戻そうとして、大きなコップに水が入ったのを差しあげ乍ら声をかけ
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