しが暖く強く成るにつれて、眩しさを感じて仕方が無く成った。
 檜の植込みや、若々しい新葉の出た樫の木位では、午後二時頃から射す、きららかな日を防げなかった。
 机に向って居ると、いつの間にか、眼が痛むほど、紙が白い反射を起すように成る。如何にか成るまいかと思って、小さい彼女が大きな机を抱えて位置をなおすと、坐りもしないうちに、外では子供達の運動会が始る――。
 我慢しても泰子は、つい不愉快にならずには居られなかった。
「今日は如何うだった?
 茂樹が五時頃帰って来て尋ねると、泰子は黙って苦笑した。
「少しは遣った?
「ええ勿論少しはしましたわ。だけれど堪らないのよ全く。引越しましょうよ 私、真個に――
 引越すと云えば、又如何那面倒と時間とを犠牲に供しなければ成らないかを、只の一度で充分に思い知らされた泰子は、自分で出かけて引越す気には成れないのだ。
 其上、夏の休暇には遠方へ旅行する次手に、家も変える計画が以前から既定して居るのである。
 然し、泰子の気分は、左様云う reasoning ではなおらなかった。
 不快な心的状態は、鼠算に不快な考を産む。第一、当分は移れないと定って居る
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