わたくしの大好きなアメリカの少女
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)自由公債《リバテーボンド》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二〇年三月〕
−−
私がアメリカに居りました時間は、ほんの短い一ヵ年と少し位の間でしたので、見聞といっても少のうございますの。向うに着いた頃はもう戦争も終りの頃ではありましたけれども、まだどこか日本とはちがった騒がしい空気が街々にも、人々の心の中にも漂って居りました。
ニューヨークなどを通りますと、よく自動車に乗って旗をふりかざして行く、徴兵募集の示威運動になどあったものでした。
アメリカの少女達はそりゃ可愛いんですよ。そして活溌ですの。私達日本の少女のように臆病なほどはにかむようなことは決してありません。少女達のゴム毬のようにはずむいきいきとした心にそって言葉づかいでも、顔の表情でも、動作でも、至極よく調和して動きます。
例えば日本になども近頃よく花の日だの旗の日だのと云って、花や旗を婦人方や皆さんのような少女達が売る催しがございましょう。
私は日本の花の日などというあの形式的な催しは嫌いですけれども、アメリカでそれに類似した催を見た時には、すっかり好きになりました。何故って、あちらの人達はそういう仕事をする場合に皆なの心が集って、ふんわりと大きな空気を造ります、みんなの感情が本当によく一致するからでありましょうね。それから戦争中でしたから自由公債《リバテーボンド》というのが度々募集されました。自由公債とはアメリカの政府が今度の大戦争の費用を調達するために発行した公債です。国を思う人々は誰でも争うて政府のために、売り歩きました。こんなときにはお母さんが勧誘して歩くのにまけまいと、少女達も、小さな穴の明いた箱を抱えて、通行する人達に
「叔父さん、入れて頂戴、リバテーボンドです。私達の国のために!」
と声をかけて勧めて居りました。もう沢山自由公債に応じた人でも、こうした少年や少女達の可憐なすすめに逢うと、
「宜しい《オーライ》[#「宜しい」にルビ]。さあ、いれましょう」
といって、洋服のポケットに手を入れるのを見うけました。入れる人も気持がいいのです。
私が街を通っておるときにも、よく
「姉さま、いれて頂戴」
と云って、少女たちが寄ってきま
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング