、その人も「よっちゃん、よっちゃん」と可愛がるというありさまで、母は母親からは愛されていなかった。従って母に与えられる縁談は、先ほどのいかがわしい取引めいたものか、さもなければ父との縁談のような、一向ぱっとしないものであるか、どちらかであったらしい。
母は役人生活の内情や、実業家と言われる人の家庭生活を――派手に暮した伯父の生活の観察からいろいろ批判していたらしく、結局技術だけで食うには困らずにやってゆけるという程度の父のところへ来ることに決めたらしい様子です。このことは私が十五、六の頃から母が自分でよく話したことでした。
さて中條の家へ来てみたところが、そこには大姑、舅姑、小姑が四人、それにかかり人が二人いるという一家のありさまでした。それらの人々は、式の前にとりかわされる親類書というもので、母にも解っていたそうです。ところが愈々当時小石川原町の家へ来てみると、三つばかりの男の子がいる、誰の子だともわからず、然したしかに家の子供で、それがはしゃい[#「はしゃい」に傍点]で座敷を覗いたりなんかしている。大姑は「俊一、俊一」と呼んで寵愛している様子です。母はその子を見た時、顔から血の
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