て此方側に立ってその話をきいた私は、
「それがいい、それがいい」
と、いつもいろいろと計画してそれを楽しんでいる父の様子を髣髴させつつ賛成した。
「お父様は気が若いからね、入院でもなさらなければ休養なんか出来っこないんだもの。結局よかったわ。くれぐれよろしく、ね。お大事に、って、ね」
 そのときは、もう私の調べがはじまりかけていた。後一ヵ月ほどで終りそうなことがわかった。そのことも父に言伝して、夜電燈が暗くて本の読めない刻限になると、私は様々な考えの間にさしはさんで、さて来年父の七十歳の誕生日にはどんな趣向でよろこばせたものかなどと頻りに考えた。また、もし父が退院する時分私の方でも生活の条件が変ったとしたら、父はさぞ私にも一緒に何処へか行けと、云うことであろう。例によって私は行きたいような心持であり、行きたくない心持でもあるそんなときの親密な父娘問答を想像し、つまりは妹でも一緒について行くことになるのだろう、と、考えは初めに戻って、七十の誕生日には、と私は思を描くのであった。
 父はこの三四年来特に、私と一緒にいられる時は十分思いのこすところないだけ楽しく仲よく過すという心持になってい
前へ 次へ
全20ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング