りなお皿よ、深い大きい壺もその上にのせることの出来る皿だわ」
そんな話もした。それから別の夜であったが何かの拍子で、母が父と結婚の式をあげた夜、襖ぎわまでころころころころ、ころがって行ってしまって夜じゅうそこから到頭離れずじまいだったという話が出た。私には父のその話し方がいかにも気に入った。父も母も愛らしく思いやられた。
「それでお父様はどうなすって?」
「どうするって……困ったようなものだが、つくづく無理もないと思ったね。何しろいきなり見ず知らずの家へ連て来られて、これが亭主だと云われたところで――困ったんだろう」
母の存命中、二人は率直な性質から誰の目にもわかるような口争いをよくしたが、亡くなった後は、常に尊敬をもって母のことは語っていた。林町の家で何か持って歩きながら、思い出したように、
「可愛い細君だった」
と云っていたことがあった。父は母の若い頃の辛抱に対して、自身の晩年の忍耐を捧げていたのだと思われる。
父は自分達の永い結婚生活の回想から、おのずと私の身の上に思いが向かったらしくて、
「それにつけても実にお前は可哀そうだと思うよ」
と云った。
「よくそうやって、いつも
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