にこにこしていられる」
私は何と答えたらいいのだろう。暫く黙っていたが、
「だって、ここにはこういう相当なお皿があるでしょう?」
半ばふざけにまぎらして私は、大きい長椅子の上に向い合って足をのばしている父をさし、さて、
「あっちには」
と、本当の方角はどこか分らないが東京らしい方角をさした。
「ああいう人がいるでしょう? 私は或る意味で娘冥加だし女房冥加だと云えると思っているのよ」
父が亡くなって通夜の晩、妹が、今お姉様とても読む気がしないかもしれないけど、お父様がお姉様にあげるんだって病院でお書きになった詩があるのよ、と云った。父はその英語の詩を書いてどうせ私に読めないだろうから、そこに使ってある字へ皆すじを引いた字引も一緒に入れてやれと云ったそうであった。私は妹にその詩というのを出して貰って見た。小判の白い平凡な書簡箋に見馴れた父の万年筆の筆蹟で、ところどころ消したり、不規則に書体を変えたり、文句を訂正したりしながら二十行の詩が書かれているのであった。
六十九歳の父が最後のおくりもの、或は訴えとして娘の私にのこしたその詩の題は The Flower King of Hono
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