。愛した女性は尠い。第二に、いつの時代からか、男ばかり主の社会となり、女性は陰で苦しい思いや不都合や云いたくても云えない思いを胸一杯にして生活していた。それ故、確《しっか》りした、ものの云える(筆でも何でも)女性は、我知らず女全体の代弁者的立場に自分を置き、冷静に批評した男性を作中に描いた。(こんな変な、勝手な男性を、まあ自分達はどうしてこのように大切にするのだろうかと怪しみ愕きながら)第三には、女性が、多く、性慾と愛との区別さえも自覚しない精神力の軟さを持つ点にも関係がありそうに思う。男性に対する時、大抵の女性は彼女の官能全部にぱっと、男性を感じる。そして、我知らず、恐ろしいほどたっぷり女性の中にある順応性によって、対象を観察するより速い直覚的順応作用を起す。けれども、それ等の自分の内部外部の経過をちっとも明瞭に意識しないように出来ている、或は癖のついている女性は、従ってその現象に自分ながら感歎することもなく、更に従ってその原因である男性をつくづく味い、眺め、探求し、抽象することがないのが普通だ。随分頭の進んだ女性にとっても、男性は自分と性的交渉を持つか――良人や恋人として――持たな
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