愛らしいだろう。彼女達は、皆膨っ面をしている時でも、決して憎らしいとは思われそうもない単純さ、優しい暖かさ、生活の耀きにかこまれている。オーギュスト・ロダンが、無比の天才で、精神にも肉体にも力溢れ漲る女性を再誕させたことは誰でも知っている。
 それに対して、女性の芸術家は、どんな男性を、彼女等の作品の中に産み出しているだろうか。美術史に遺っている著名な女流画家――ロザ・ボンヌールは何を描いた? 一生、動物を描き通し、傑作は馬だ。マリー・ローランサンは、彼女の幻想の花や少女を独特の灰色、白、桃色、黒緑で、粋に病的に描く。二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一つの例も知らない。文学的作品に於ては、もう少しは希望がある。東西の傑出した女性の作家は、兎に角彼女等の芸術家的客観性によって、男性を描写してはいる。然し、それは往々余り冷静すぎ、傍観的態度でありすぎ、または、道徳上の批評を多く加えてとり
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング