よもの眺め
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四六年一月〕
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 この数年の間、私たちは全く外国文学から遮断されて暮して来た。
 第一次欧州大戦の後、ヨーロッパの文学が、どんなに変化したかということについては、或る程度知ることが出来ていた。けれども、それにしても十分ということは出来ず例えば「チボー家の人々」は、主人公である青年が、大戦を経た若い時代の精神生活の推移として、世界観を変革されてゆく部分になると、翻訳は頓挫してしまった。世界の歴史の進展によって、生きている人間の活溌な心は、変らざるを得ない、という、最も人間的な、従って最も文学的なモメントにおいて、日本の読者たちは、検閲の扉で、ぴったりとその興味ある世界から閉め出されてしまったのであった。
「欧羅巴の七つの謎」というジュール・ロマンの著作は、第二次大戦前後におけるフランスの「善意ある人々」の国際情勢というものの観かたやそれへの処しかたが如実に描き出されていて、非常に面白いし深く反省もさ
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