せる小さい本の一つであった。ヨーロッパの文化の基底をなして来たフランスの個性の評価、「指導的な個人たち」が、第二次世界大戦へ向って動く各国間の矛盾の解決に対して、無力であったばかりか、個々人の影響力というものについてロマンが抱いていた善良であるが悲しい程非現実な期待のために、ファシスト政治家の極めて計画的な国際詐略にかかっている。一定の段階までは、人間性というものの巨大な発展の目安となって来た過去のインディヴィジュアリズムが第二次大戦の開幕とともに、音を立てて崩壊する姿が、「欧羅巴の七つの謎」のあらゆる頁にうかがわれるのである。
 わたし達は、ロマン及びヨーロッパ各国における一団の人々の善意の悲劇を知りたく思う。それにつけても、ロマンの近年における代表作であった「善意の人々」の完全な訳を読みたいと思う。フランスの作家ジュール・ロマンを、海峡の彼方の国々イギリスやアメリカの、平和を愛し、国際正義を希うおとなしく善意ある心情の友としたのは、その「善意ある人々」であった。
 第二次大戦の参加とともに、日本では明治以来の社会的後進性がすっかり露わになった。そして悲しがなし近代的個性の自覚の上に
前へ 次へ
全8ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング