パラと実を落されたと云えないであろうか。これ迄のフランス文化が自身の古い土壌の上で養分を吸いきり、地中の有害な微生物を、その根から駆除するためには、よほど深く鋭い鋤かえしが入用であろう。日本の近代精神のより健やかなる展開のために先ず入用なのは、誤った技術家が非科学的に使う剪定鋏を引きこませること、及び悪条件にもちこたえつつ、どうやら命脈を保ちつづけて来た一条の民主的、合理的精神の幹に、全く科学的に考慮された接木《つぎき》をして、豊かな結実を可能にする方法ではなかろうか。フランス文化の事情より見ると、日本のそのような過程は、殆ど世紀の一節だけおくれている。しかも、それが同時的な人間の課題として、今日わたし共の前に提出されているのである。
 日夜地球はめぐりつつあり、こうして、或るところでは重く汁気の多い果実が深い草の上に腐れ墜ち、或るところでは実らぬ実を風にもがれているけれども、豊富な人類の営みは景観の複雑さを、其の面にだけとどめてはいない。ワンダ・ワシリェフスカヤの「虹」は、読むものに、一つの新しい感動をもって新しい文学の輪郭を予想させた。
『月刊ロシア』という雑誌は、どういう理由でか
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