ののように仮装されがちな皮相なものわかりのよさが、女の実質をたかめるものでないことを理解するところまで、ものわかりよくならねばなるまい。外からこうしろといわれ、そうしていれば無事だからというものわかりよさから、そうしながらも、何故そのような要求がされるのかそれを知ろうとする心をすてないものわかりよさ、そういうものわかりよさを女の成長のモメントとしてつかまなければならないと思う。
 世界で一番きたない本はバイブルである、という意味のニーチェの言葉が警句というより深い意味をもっているとすれば、それはガリレオ・ガリレーの生涯やホーソンの「緋文字」を見てもわかるとおり、どっさりの人類の叡智や生命や愛が、その一冊の分厚い本の頁のあけたてによって殺戮されてきたからである。常識の中に、浄きいかりを腐らしたからであると思う。
 女のいつわりない女心は、ものわかりよさが腐臭を放っていることをよろこばないのである。
[#地付き]〔一九四〇年十月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親
前へ 次へ
全13ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング