もう少しの親切を
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)囂々《ごうごう》たる

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)此等|囂々《ごうごう》たる恋愛論に対して

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)お定[#「定」に傍点]の話が出ている。
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 近頃、またひとしきり恋愛論が盛になって来ている。どの雑誌にもそういうような論文や座談会の話が出ている。そして、この雑誌も、数頁をそれのために費そうとしているのであるが、私の心には、率直に云って一つの疑いが、此等|囂々《ごうごう》たる恋愛論に対して生じているのである。
 最近数年間の社会の事情は急速にうつりつつある。現代人の全生活は日夜それらの波に中心を揺られ、或はその縁を洗われ、いずれにせよ強く動かされている。しかも、大多数のものにとって、自分達の生活の中に反響して来ている波の方向とか歴史的な性質などというものは、はっきり把握されず、ただ推し移されつつある自覚が、極めて感覚的なものとなって各自の胸に、頭に感じられている。
 こういうなかで、恋愛は、人間生活、社会生活の強
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