こで、どんな理由で、何分おくれているのかということに就ては全然知っていなかった。待っている人々と彼等との違いは、ただ彼等はちっともそれについて心配していないことと、呑気に立って喋舌《しゃべ》っていて、相当頻繁にこそこそと入場券購入許可証とゴム印を捺した紙片をもって来る人を、出口から乗車フォームへ通してやっていることだけである。
 姫路その他の駅でも感じていた運輸事務能力の低さ、無智な不親切さが、このときも身に沁みた。
 思えば愕《おどろ》くべきことだが、日本の鉄道省は、各駅間の無電連絡を一つも持っていないのではなかろうか。
 事務室で、チリチリとベルが鳴り、係員がハアハア、ハアハア、と一種の玄人らしさで返事している、あのデンワで、この多忙、繁雑、非能率な国鉄運営の難事業を処理しているのではないだろうか。
 各種の軍事施設は、おそらく優秀なラジオをもっていたろうと思われる。憲兵隊のようなところも、同様であったに違いない。そこにあったラジオの設備を、せめて運輸事務の改善のために活用することは出来ないものなのだろうか。そして、食糧の輸送に一つの強味を加えることは出来ないものだろうか。
 各地
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング