短波を禁止していた日本当局は、誰かが優良品を輸入するとすぐ、短波受信に必要な機械の部分品をすっかりそれから剥ぎとって来た。一寸のことではもう短波の聴けないように破壊したのち、使用をゆるした。
いよいよ、明日からでも全波が聴けると告げられた時、そうして不具にされた設備をもっている人々は、どんなに残念に思ったことだろう。そしてまた、そこに出入りし、同じ隣組に属す何倍かの人々は、心からその残念をわかち合わずにいられなかったと思う。
全波機は、二百円より五百円迄で製作販売されると云われたけれども、わたしが相談するどの専門家も、それで出来るとは保証してくれない。大体十倍の価格がいわれる。その上、日本の今日の技術では、全波に切り替えて行くスウィッチの製作が未熟であって、とても自由に地球をめぐる電波は捕えかねるらしい。固定させて、それぞれの聴取目的の波長にやや合わせて、幾つかをきめて切り替えて行くスウィッチならば、相当の性能をもつということである。その他、絶縁体の質の問題とかもあるときいた。
一言にして云えば、全波が聴ける、という声、聴きたいという欲望は日本中に普《あまね》くあるのだが、実
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