まちがい
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)咄嗟《とっさ》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年十二月〕
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 夜の八時ごろ、お隣の女中さんが柿の木の彼方から、お電話ですと呼んでくれた。出てみたら弟の家内で、いそがしいところ呼び立てて御免なさいね、百合ちゃん、四谷旭町――旭は九に日をのせた旭ね、そこの大久保ってところ知っていて? と訊くのであった。さア、大久保――何なの? すると、きっとわきに六つの甥がいでもするのだろう。セブンなんだけれど、ということである。そこからハガキが来てね、上落合へ一遍行って回送されて来ているんだけれど、お召の著物が一枚五円で入っているのが明日限りで流れるって知らして来たんだけれど。――上落合に住んでいたこともあり、そういうところに縁もなくはないから、あした流れるという言葉に慌てさせる実感があって、私は受話器を耳に当てたままいそがしく記憶の裡をかきさがした。それでハガキにはそれだけ書いてあるっきりなの? ええ。名がちがうんだけれど、中條進方、相川栄様とあるの。栄さ
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