た。
 裏の小道を生垣沿いにかえりながら、私は何となしひとり笑えて来た。咄嗟《とっさ》に、自分のことにひきつけてあわてたような気持になったのが如何にも女房くさくて我ながら滑稽なのであった。
 三四日してから、或る友達のところへ行ったら、主人は留守で子供もいず、がらんとした茶の間に栄さんがそこの七十のお婆さんと坐っていた。両方から、おや、と云い、ここで会おうとは思わなかったでしょう、と云った。それから二人でおばあさんにお辞儀をしてそこを出て、古本屋によったりしてバスまでぶらぶら歩きながら、私はふっと夜の電話の件を思い出して話した。すると栄さんはそういうときの癖で、一寸足を止めるようにして片方の手のひらをひろげ空をうつような恰好をしながら、在りますよ、ホラ、お寺へ出る迄に蕎麦屋があったでしょう、と私よりは永く住っていたその界隈を説明した。あすこの右側だったかでそういう表札を見かけたことがありますよ。でも、栄さんまでいるとはおどろいたわねえ。一体その栄さんて、どんな栄さんなんだろ、と栄さんが云うにつれて、私たちは思わず大きな体を折りまげてふき出した。どっちもまん丸な私たち二人には、どんな栄さ
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