ども、明日の歴史をつくってゆく新しい力のいくらかは、疑いなくその彼女たちによって生まれているのである。
 みんなが歴史の中に生きている。けれども川の流れに浮んだ一本の藁しべのように、ただ押し流され、吹きよせられ、偶然つづきのうちに生涯を終ってしまいたいと思っている人が、ただの一人だってあるだろうか。
 キュリー夫人やコルヴィッツは、ある時代の歴史の中で、特にきわだった個性である。然し、キュリー夫人の活動が可能となる様に、歴史の条件が備わって来る迄には長い人間業績の集積がなければならなかった。世界の物理学が原子の問題をとりあげ得る段階に迄到達していたからこそ、ポーランドの精励なる科学女学生の手はピエール・キュリーの創見と結び合わされ、彼女の手もラジウムの名誉ある火傷のあとをもつようになった。愛は架空にはない。原子が、人間の幸福のために支配されるまで、何万人の科学者たちが、その勤勉な真面目な生涯をこの科学の新分野の探求のために費しただろう。その科学者たちの忠実な妻。その科学研究室の薄給で酬われる名の名声もない、しかし決して彼女らなしに科学が前進しなかった多くの婦人助手たち。キュリー夫人に尊
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