まえがき(『真実に生きた女性たち』)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九四六年十月〕
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 ここに、四人の婦人の物語がある。何年も前に書かれたこれらの物語をきょう、くりかえし読んでみて、深く深く心を動かされることは、人間社会の歴史は、何とたゆむことなく前進しているであろうか、ということである。そして、生活は、何と堂々たる偽り得ないものであろうか、ということである。四人の女性の一人一人の生きた姿は、歴史の鏡となって、私たちに偉大であった十九世紀と、更に経験によって聰明になろうとしている現世紀の意味とを感じさせる。どんなにすぐれた個性も、人類社会の歴史の進行の枠からとび出して生きることはあり得ない。しかし、優秀な個性と云うほどの資質は、いつも最も素直に、力いっぱいに歴史のそよぎに反応していて、たとえばフロレンスやマリアの様に、その矛盾と分裂とにおいてさえ、なお次の時代にとって無意義ではあり得ない何かの価値を、歴史のうちにもたらしているのである。彼女たちは、歴史によって生み出された。けれ
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