よりにしてるのやさかえ」
雛勇はんはこんなしめっぽい事を云って居る、その横がおは、瞳をよそに動かしたくないほどの美くしさで日光をうしろからうけてまっしろなかおのりんかくはうすバラ色にポーッとにおって居る。紫色にキラキラ光る沢山の髪、私は絵の――浮世絵の中からうき出した人を見る様な気持で居た。
フッと何と云う事なしにかるいほほ笑みが私の頬にのぼった。「今日はいい日だ事、いつもよりしずかで――そいでだあれも居なくってネエ」
「いい日や気がボーッとするほどのびやかな日……こうやって二人きりで……」
何となくそのまんま聞きすててしまいたくない様ないい調子でこんな事を云って私の手をとって自分のかおにおっつけてしまった。
「アラきたなくなりゃしないかしら」ひょっとこう思ったけれ共細い手でもっておさえて居るのを――と思ってそのまんまそうっとされるまんまになって居た。私の手にはこまっかいすべすべしたにおやかな肌がひったりとついて居る。そしてそのやわらかさも暖ったかみもすぐにじかに私の手に感じて居る。私はお妙ちゃんと同じ早さに息をしてかるくつぶって居る長いまつ毛をつめた、紫の細かいつぶで出来て居る
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