」に「(二字不明)」の注記]ナ、お百合ちゃん、キット、あれはなくさずに持って居てナ、わてこれは死んだら棺の中まで入れてもらいますさかえ……」お妙ちゃんはもう氷りかたまった様な声で斯う云って闇をすかす様にしてしばらく私のかおを見つめて居たが急にクルリと向きなおって暗の中へ――楽屋の方へ行ってしまった。「お百合ちゃん」耳のせいか何かかすかに私の耳にひびいた。私ももうどうにもこうにもならない様になって紫のふくさを抱いて祖母をせきたてて列車にのりこんでしまった。私は自分の体が汽車にのって居ると云う事はどうしても信じられなかった、ましてあんなに仲よくして居たお妙ちゃんを一人おいて来たとは――いくら考えても思われなかった。けれども早い勢でとんで居る列車は段々私をそう信じさせてしまった。私も又それを信じないわけには行かなかった。うすっくらい寝台車の中で私は涙を又新らしくポロポロこぼしながらふるえる指さきでしっかり結んである紫ふくさの結び目をといた。中からはなお私の涙を誘い出す様な青く、まっさおく光る青貝の螺鈿の小箱があった。私がよくこれを見るとこの角々をなで廻しながら「マア、ほんまに何とえい箱やろ、
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