の時々になげる視線にかなしく、震えながらそそがれて居た。
幕が下りるまで私はお妙ちゃんのあのあわれげな視線をうけて居る事が出来るかしらこう思いながら、見られればキッとこっちからもそれに答える心持をもって居た。苦しい、悲しい、重い、何とも云えない気持の中に幕がおりた。私は、お妙ちゃんにも一度会ってからにしようかそれともやめようかと思って大変に迷ったけれ共とうとう又楽屋うらのうす暗いとこで「雛勇さんに楽屋下でまってるって云つ[#「つ」に「(ママ)」の注記]男にたのんでぽっくりの音の来るのを今か今かとまって居た。間もなく、パタパタとなまめいた草履の音がきこえて私の胸にはお妙ちゃんがよっかかって居た。ぽっくりがどうしたんだか目っからないでやたらに手間どるから草履のまんまで来たんだと小さいおどったふるえた声で云った。「忘れないで忘れないで」互に只夢の様な気持でくり返した。どっかの時計はもう十一時をうって祖母は私に早くおし早くおしとせきたてて居る。「お妙ちゃん」私はもう涙のいっぱいたまった声で小さくよんだ。
「お百合ちゃん――ほんまにお忘れやはるナ、わてはナ、死んでもおぼえてまっせ□□[#「□□
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