ものにさわるよりなおおそろしくその結果の思いやられて居た割にお妙ちゃんがはっきりして居て呉れたと云う事は幾分かあてがはずれた様な気もするけれ共思ってることをこらえて見るんだろうと思うとあからさまに表わされたよりはるかに私の心には深く鋭く感じて居た。その日お妙ちゃんはただ「忘れないで呉れ、忘れないで呉れ」とくり返して居た。そして出がかかるまで何にもしないで二人で手を握りあって居た。
その翌日もその翌日も、私はお妙ちゃんのところへ行った。
私達は前の様にしゃべったりふざけたりはしずだまって手を握り合ってもたれあってそして時々互に涙をこぼしたりつかれた様なほほ笑みをかわしたりして居た。そうして人間の力でどうする事も出来ない時は私達の別れる時を段々迫らして来た。そして私達がそれを思って身ぶるいをして居る九月の九日になってしまった。朝起きぬけから二人は一緒に居た。そうして長い間話しもしず御飯もたべず只御互の手をなでて見たりしっとりとうるんだ瞳を見つめあって居たり頬ずりをして見たりそうして夜になってしまった。私達は十一時半の列車でたつ事になって居た。そしてその晩はお妙ちゃんは都踊りに出る日だっ
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