ら?」何でもなさそうな様子で私はたずねた。「そうやなあ、いつきいても悲しい事やけど――前へ久しい時にきいた方がいいと思うワ、思うだけの事が出来るから……」こんな事をお妙ちゃんは深い考えもなくって答えて呉れた。私は私がどうにも斯うにもならない様な重い曇った気持をわざとかくす様に押し出す様な笑い方をして見たりわざと下らないじょうだんをしたりして家に帰る時には涙をこぼして居た。まるで見もしらない舞姫なんかとどうしてこんな涙の出るほど別れるのがいやになったんだろう、どうして仲がよくなったんだろう、そんな事を考えながら私はポロポロと涙をこぼして居た。翌朝私は目を覚すとすぐ行こうかとも思ったけれ共どうしてもその気になれないのでお互に気のせかせかして居る時の方が却って好いと思ったんでわざと三時すぎにお妙ちゃんの家に行った。丁度御化粧のおしまいになったばっかりの時であった。私とお妙ちゃんとはだまって座って居る、そして二人とも涙をこぼして居る。お妙ちゃんも一言も云わず私もだまって居る。
「でもマア、悲しいけどよう教えて御呉れやはった」
 お妙ちゃんは消えそうな声でこんな事を云って居た。私は私が自分のはれ
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