。そんな事をして八月も中頃になった。祖母は時に思い出した様に折々「帰ろうかネーもう随分居たんだから――」こんな事を云って居たけれ共私は懸命にもっと居る様に居る様にとすすめて居た。祖母は九月の十日頃には帰ろう、こんな事をもうちゃんときめてしまって私にもうどうにもならない様になってから云いわたされた。八月の二十九日頃であった。私のかお色はキットどうかなったに違いないけれどもジーッと祖母の瞳を見つめて居たが急に家をとび出してお妙ちゃんのところに行った。この頃私はもうじきどうしても帰らなくっちゃあならない時が近づいた様な気がして居たんでどんな事のあった日にでも一日に一度はキットお妙ちゃんの家に行って居た。用事もないらしいのんきなかおをして居るのを見ては「マアよかった、まだ帰るには間があるらしい」と思って安心して居るらしく私には思われて居た。よろこんで居るのに――と思うとどうしても私は云い出す事が出来なかった。二人は手を握りあってしずかな真昼の空気の中にひたって居た。「あのネ、おたえちゃん、私が若し帰るとすると帰る日なんか前っからきまった方がいい、それともその前の日ぐらい急にきいた方がいい、どち
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