がその時どんなに淋しそうに見えたろう。
考えて見れば、自分と同じ病の人の歌の気持は、私共に想像出来ないほど他の人の心を打ったに違いない。その様子が、どうしても追う事の出来ない様に私の目先にチラツいた。
そして、私は、涙をためながらあの人にたよりを書いたのであった。
奇麗な白い紙に、細い平仮名ばかりのやさしい「ふみ」であった。
何としても、あの人の病を私が明かに知って居る様な事を云えなかったので只心に浮ぶままを書きつらねて行った。小さい私の部屋の隅から隅までより倍もながかった。
じいっと、柱にもたれて、次第次第に黒ずんで来る森を見て居ると、その中の文句がきれぎれに思い出される。
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いつもいつもゆうぐれにさえなりますれば、私の心に夕ばえのくもの様にさまざまないろとすがたのおもい出がわきますなかの一つが、とうとうこうやってふでをとらせたのでございます。
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思いがけないあの長い長い私の手紙をうけとって、彼の人はどんなに妙に思った事だろう。
私は、床の上に起きあがって封書を持ったまましばらくは私からと云う事をうたがって、やがて私の癖の多
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